
トーマス・オグデンは,現在アメリカを代表する精神分析家のひとりである。本書は,オグデンの最初の著作であり,精神分析における鍵概念である投影同一化の緻密な解説書となっている。
投影同一化はメラニー・クラインによって導入された概念であり,当初は自身のこころに収めきれず,統合しえない情緒体験を分割し,内的対象に押しこむ排出空想として提起されたが,オグデンはこれを実際の対人関係を巻きこむ形で展開する心理的-対人的プロセスとして捉えなおし,さまざまな臨床場面で応用可能な理論へと練り上げた。
また本書では,投影同一化すらも成立しえない「無体験」という心的状態についても注目し,この概念を用いて統合失調症患者の中核的葛藤を「意味を生みだそうとする動き」と「意味を破壊しようとする動き」の葛藤として理論化した。そして,心的な意味が創造されるプロセスを臨床素材をもとに鮮やかに示している。
『こころのマトリックス』『体験の兆すところ』『もの想いと解釈』など,以降の書で展開されるオグデンの独創的な理論の萌芽がここにある。臨床的な営為に携わるあらゆる人々にとって役立つ書であることは間違いないだろう。
その他のアイテム
-
- 意味の彼方へ[オンデマンド版]-ラカンの治療学(新宮一成編)
- ¥5,720
-
- こころの出会い-精神分析家としての専門的技能を習得する(ルイス・アロン著/横井公一監訳/揖斐衣海,今江秀和,今井たよか,長川歩美,野原一徳訳)
- ¥5,720
-
- パーソナル 精神分析事典(松木邦裕著)
- ¥4,180
-
- はじめてのメラニー・クライン グラフィックガイド(ロバート・ヒンシェルウッド,スーザン・ロビンソン著/オスカー・サーラティ 絵/松木邦裕 監訳/北岡征毅 訳)
- ¥2,640
-
- 新版 症例でたどる子どもの心理療法-情緒的通いあいを求めて(森 さち子 著)
- ¥3,520
-
- 新訂増補 母子臨床と世代間伝達 (渡辺 久子著)
- ¥3,740